第46回 暁星歯学会総会・講演会の予定をお知らせしています。
詳細は、決まり次第、追って掲載いたします。

日付:2025年10月26日(日)

総会・講演会: 暁星学園 視聴覚室

総会は、午後14時頃~(予定)
講演会は、午後15時頃~(予定)しています。

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講演者:菊池 重成 (きくち しげなり)きくち歯科医院院長

題目:掌蹠膿疱症治療において歯科が果たすべき役割

〜あなたのライフワークは何ですか?

抄録:近年、さまざまな領域において医科と歯科が連携して治療を進めることの重要性が広く周知されており、その一つとして掌蹠膿疱症(PPP)が注目されています。この疾病の発症誘因にはさまざまな因子があり、これまで歯科医師の間では金属アレルギーとの関連が注目されていましたが、近年の研究により病巣感染がより大きな誘因であることが明らかになっています。PPPの治療において最も重要なのは病巣治療であり、中でも歯性病変が関与している割合が高いことから、根本治療のためには適切な歯科治療を行う必要があります。これは歯科がPPPの治療に直接関与する、メインプレーヤーであることを意味しており、医科疾患の治療に直接貢献できる、歯科界にとっての大きなやりがいであり、大きなチャンスです。

標準的な治療として普及させるためには「掌蹠膿疱症の歯科診療の手引き」を作り、それを普及させる必要性があります。多くの歯科、皮膚科の先生方の力によって、この9月に行われた第35回日本口腔内科学会シンポジウムにて「掌蹠膿疱症の歯科診療の手引き」が発表されました。

ここで重要なのは、病巣治療における歯科治療の内容を以下の3つのステップに分類し、治療の流れを理解することであると考えています。

①スクリーニングおよびPPP患者でなくてもすぐに行うべき治療(誰にでもすぐやる治療)

②通常では必ずしも行わないが、PPPでは重要な治療(リスクのある大変な治療)

③症状の改善が見込めないため、積極的に抜歯する治療(あきらめて抜歯)

この発表では掌蹠膿疱症における医科歯科連携を実践する上で、歯科が果たすべき役割について解説します。また、この病気があぶり出してしまう、日本の歯科治療が抱える影の部分についてもディスカッションをしたいと思っています。

 

講演者:小林里実(こばやし さとみ)聖母病院皮膚科

題目:掌蹠膿疱症および掌蹠膿疱症性骨関節炎における歯性病巣治療の重要性

抄録:掌蹠膿疱症(palmoplantar pustulosis, PPP)は手掌と足底に無菌性膿疱が多発する疾患で、我が国に多く、有病率は0.12%にのぼる。その10~30%で掌蹠膿疱症性骨関節炎(pustulotic arthro-osteitis, PAO)を併発し、前胸壁に強い疼痛を伴う骨炎や関節炎をきたすほか、脊椎や仙腸関節、股関節、手足の末梢関節、長管骨にも無菌性骨髄炎や付着部炎がみられる。機能部位である手足の膿疱と角化による皮膚の亀裂は、洗顔や洗髪、家事、歩行などを困難にするだけでなく、「汚い」と家族や他人から拒絶を受け、深刻なスティグマとなる。PAOの骨髄炎による激痛は、呼吸や寝返り、着替え、移動など、基本的な日常生活を困難にするほか、脊椎炎の進行例では脊椎の骨強直や圧迫骨折を生じ、不可逆的な障害を残す 。

近年、症例の集積によりPPPとPAOの発症機序が解明されてきた。喫煙のほか、わが国のPPPとPAOの75~80%は歯性病巣、病巣扁桃、副鼻腔炎などの病巣感染が発症に深く関わっており、病巣治療によりPPPは軽快し、PAOでは症状の軽減や骨病変の拡大抑止ができる。歯性病巣を留保したままでは、いくら高額の生物学的製剤を投与

しても十分な効果が発揮されない例が多い。これはAndrews GCが1934-1935年に提唱した bacterid typeに合致する。PPPとPAOの発症契機となる歯性病巣には根尖性歯周炎、辺縁性歯周炎、智歯周囲炎があり、これらは無症状であるのが特徴で、パノラマX線やコーンビームCTなどの画像検査を用いて歯性病巣を積極的に検索する必要がある。これまで歯科領域で注目されてきた金属アレルギーの関与はPPP全体の5%程度に過ぎず、PAOへの関与は皆無である。

日本皮膚科学会より掌蹠膿疱症診療の手引き2022、日本脊椎関節炎学会より掌蹠膿疱症性骨関節炎診療の手引き2022が発表された。これらの手引きで強調したのは、病巣治療と禁煙を優先することであり、複数科が連携して治療に当たる必要性である。薬剤や生物学的製剤は対症療法に過ぎないと位置づけた。日本皮膚科学会ホームページのガイドラインから無料でダウンロードできるので、ご一読いただきたい。PPPとPAOは、皮膚科、リウマチ・整形外科が取り扱う疾患でありながら、歯科および歯科口腔外科、耳鼻咽喉科が治療の要を担う。そこで、2024年より日本口腔科学会と日本口腔内科学会が協力して掌蹠膿疱症歯科診療の手引き 作成委員会が編成され、2025年の完成を目指している。歯科医、患者、皮膚科医、リウマチ・整形外科医が、PPPおよびPAOの治療として無症状の病巣を治療する必要性を理解し、患者のQOL向上を俯瞰的にみた歯科治療を実施することが我々の課題である